遺産分割がまとまらないまま、申告期限が来たら?(未分割の申告)
相続人の話し合いがまとまらなくても、相続税の申告と納付の期限(10か月)は延びません。まとまらないまま申告するときの計算と、あとで特例を使うために申告のときに出しておく書類をまとめます。
結論
期限までに分けられていない財産は、民法の相続分で受け取ったものとして計算し、期限内に申告と納付をします。このときは配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えませんが、申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えておけば、3年以内に分けたあとで特例を使い、納めすぎた税金を更正の請求で取り戻せます。3年たってもまとまらないときは、期限内に税務署長の承認を受ける手続きがあります。
くわしく
まとまらないまま申告するときの計算
分けられていない財産は、民法の相続分(寄与分は考えない)や包括遺贈の割合で、各人が受け取ったものとして相続税を計算します(相続税法55条)。納付も、この計算でそれぞれが期限までに行います。
このとき、分けられたことが条件になっている特例は使えません。
| 特例 | 未分割のときの扱い |
|---|---|
| 配偶者の税額軽減 | 申告期限までに分けられていない財産には使えない |
| 小規模宅地等の特例 | 申告期限までに分けられていない宅地には使えない |
どちらも、あとで分けたときに使えるようにする手続きがあります(次の「あとで特例を使うための手続き」)。そのため、特例を使えば相続税がかからない場合でも、まとまらないうちは税額が出て、いったん納めることになります。
数字で比べると
次の例で、まとまらないまま申告したときと、分けて特例を使ったときの税額を比べます。
- 相続人は配偶者と子2人(法定相続人は3人。基礎控除は3,000万円+600万円×3人=4,800万円)
- 財産は、亡くなった方と配偶者が住んでいた自宅の土地(330㎡、評価額6,000万円)と、預貯金など1億4,000万円の合計2億円。借入金や葬式費用はなく、ほかの控除も使わないものとします
- 分けるときは、配偶者が自宅の土地と預貯金4,000万円を、子がそれぞれ預貯金5,000万円を受け取ります(民法の相続分と同じ割合)
| 未分割のまま申告 | 分けて特例を使う | |
|---|---|---|
| 自宅の土地の評価 | 6,000万円 | 1,200万円(80%減) |
| 課税価格の合計 | 2億円 | 1億5,200万円 |
| 基礎控除を引いた額 | 1億5,200万円 | 1億400万円 |
| 相続税の総額 | 2,700万円 | 1,540万円 |
| 配偶者が納める額 | 1,350万円 | 0円 |
| 子1人が納める額 | 675万円 | 約507万円 |
| 3人で納める額 | 2,700万円 | 約1,013万円 |
未分割のまま申告:基礎控除を引いた1億5,200万円を法定相続分で分けると、配偶者が7,600万円、子が3,800万円ずつです。税率をかけると、配偶者の分が1,580万円(7,600万円×30%−700万円)、子の分が560万円ずつ(3,800万円×20%−200万円)で、相続税の総額は2,700万円です。民法の相続分で受け取ったものとして、配偶者が2分の1、子が4分の1ずつを納めます。
分けて特例を使う:小規模宅地等の特例で土地の評価が4,800万円下がり、基礎控除を引いた額は1億400万円です。法定相続分で分けると、配偶者の分が860万円(5,200万円×30%−700万円)、子の分が340万円ずつ(2,600万円×15%−50万円)で、相続税の総額は1,540万円です。これを実際に受け取った額(配偶者5,200万円、子5,000万円ずつ)の割合で分けると、配偶者が約527万円、子が約507万円ずつです。配偶者が受け取った額は1億6,000万円以下なので、配偶者の税額軽減で配偶者が納める額は0円になります。
この例では、まとまらないまま申告すると、期限までに3人で2,700万円を納めます。分割見込書を添えておき、申告期限から3年以内に分ければ、更正の請求で差額の約1,687万円(配偶者1,350万円、子約168万円ずつ)が戻ります。
金額は説明のための概算です。実際の申告では、端数の処理や、ほかの控除・特例の有無で変わります。
あとで特例を使うための手続き
- まとまらないまま申告するとき:申告書に「申告期限後3年以内の分割見込書」を添えて出します。
- 申告期限から3年以内に分けたとき:分割があったことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をして、特例を使った税額に直します。
- 3年たっても、調停・審判・訴訟などでまとまらないとき:申告期限から3年を経過する日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を出し、税務署長の承認を受けます。
- 承認を受けたあとで分けたとき:分けられるようになった日(判決の確定など)の翌日から4か月以内に分け、その分割があったことを知った日の翌日から4か月以内に更正の請求をします。
分けたあとで税額が変わるとき
分けた結果、民法の相続分より多く受け取った人は税額が増え、少なく受け取った人は減ります。増えた人は修正申告を、減った人は更正の請求をします(相続税法31条・32条)。特例を使えるようになった分も、ここで一緒に直します。
申告期限までにしておくこと
- 分け方が決まらなくても、財産の確認と評価は進めます。未分割の申告でも、財産の一覧と評価は要ります。
- 納める税金の用意を考えます。亡くなった方の預貯金は、遺産分割の前でも、相続人が1人で一定額まで払い戻しを受けられる制度があります(民法909条の2)。
期限と注意
- 分け方がまとまらなくても、申告と納付の期限は延びません。遅れると、延滞税や無申告加算税がかかることがあります。
- 分割見込書を出しておかないと、あとで分けても、配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例を使えないおそれがあります。まとまらないまま申告するときは、忘れずに添えます。
- 3年たってもまとまらないときの承認申請は、出せる期間が2か月と短くなっています。申告期限から3年がたつ前に、まとまる見込みを確かめておきます。
- 更正の請求は、分割があったことを知った日の翌日から4か月以内です。分けたら早めに手続きをします。
親の記事の相続税の申告期限から逆算するでは、10か月の中で、分け方の話し合いをいつまでに進めるかをまとめています。
根拠
- 国税庁 No.4208 相続財産が分割されていないときの申告
- 国税庁 No.4208 Q&A(3年を超えて未分割のとき)
- 国税庁「申告期限後3年以内の分割見込書」(手続の案内)
- 国税庁 No.4155 相続税の税率
- 国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減
- 国税庁 No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
- 相続税法 第55条(e-Gov 法令検索)
制度・一次資料の確認日:2026年10月23日。税額は、相続開始日の法令と、ご家族の状況・財産の評価に応じて計算します。