相続放棄をした人にも、相続税はかかる?(死亡保険金・非課税枠)
借入金が多いなどの理由で相続を放棄しても、亡くなった方が保険料を払っていた死亡保険金を受け取ると、相続税がかかることがあります。放棄した人の計算と、家族全体の計算への影響を整理します。
結論
相続を放棄した人は、民法上は初めから相続人でなかったものとされます(民法939条)。それでも、受取人として死亡保険金や死亡退職金を受け取ると、遺贈で取得したものとみなされ、相続税の対象になります(相続税法3条1項)。放棄した人は、保険金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)を使えず、借入金などの債務も差し引けません。一方、基礎控除の人数や相続税の総額は、放棄がなかったものとして計算します。
くわしく
「相続を放棄した人」は、家庭裁判所で放棄した人
相続税でいう「相続を放棄した人」は、期限内に家庭裁判所に申述して、相続の放棄をした人です(相続税法基本通達3-1)。遺産分割の話し合いで「財産はいらない」として何も受け取らなかっただけの人は、相続人のままです。この人は、受け取った保険金に非課税枠を使え、自分が負担した債務も差し引けます。
放棄した人でも、相続税の対象になるもの
| 受け取ったもの | 相続税での扱い |
|---|---|
| 死亡保険金(亡くなった方が保険料を負担していた契約) | 遺贈で取得したものとみなして対象。非課税枠は使えない |
| 死亡退職金(亡くなった後3年以内に支給が確定したもの) | 遺贈で取得したものとみなして対象。非課税枠は使えない |
| 相続時精算課税を選んで、亡くなった方から受けた贈与 | 放棄して何も受け取らなくても、贈与の時の価額(令和6年以後の贈与は、精算課税の基礎控除を引いた残り)を相続税の計算に入れる |
| 暦年課税で、亡くなる前の一定の期間に受けた贈与 | 保険金などを受け取ったときは、相続税の計算に加える。何も受け取らなければ加えない |
暦年課税の贈与を加える期間は、2026年中に亡くなった場合は亡くなる前3年以内です。2027年以後に亡くなった場合は2024年1月1日以後の贈与へと延び、2031年以後は亡くなる前7年以内になります。
※ 延びた期間(亡くなる前3年より前)に受けた贈与は、その合計額から100万円を引いた残りだけを加えます。亡くなる前3年以内の贈与からは引きません(相続税法19条1項、国税庁 No.4161)。
放棄した人の計算で、使えるもの・使えないもの
| 項目 | 放棄した人(根拠) |
|---|---|
| 死亡保険金・死亡退職金の非課税枠 | 使えない(相続税法12条1項5号・6号) |
| 借入金などの債務 | 差し引けない(相続税法13条1項) |
| 葬式費用 | 実際に負担した額は差し引ける(相続税法基本通達13-1) |
| 2割加算 | 子・父母は加算なし。代襲相続人の孫が放棄して保険金などを受け取ると加算あり(相続税法18条、国税庁の質疑応答事例) |
| 配偶者の税額軽減 | 遺贈で取得した財産について使える(相続税法基本通達19の2-3) |
| 未成年者控除 | 放棄がなかったとした場合に相続人で、18歳未満などの要件を満たせば使える(相続税法基本通達19の3-1) |
| 相次相続控除 | 使えない(相続税法基本通達20-1) |
2割加算は、亡くなった方の配偶者と一親等の血族(子・父母)以外の人にかかります。子が放棄しても、一親等の血族であることは変わらないので加算されません。一方、子が先に亡くなっていて、代わりに相続人になるはずだった孫(代襲相続人)が放棄すると、その孫は相続人として扱われず、保険金などを受け取れば2割加算の対象になります。
家族全体の計算は、放棄がなかったものとして
次の3つは、放棄した人がいても、放棄がなかったものとして計算します。
- 基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)の人数(相続税法15条2項)
- 死亡保険金・死亡退職金の非課税枠(500万円×法定相続人の数)の人数(相続税法12条1項5号・6号)
- 相続税の総額を出すときの、法定相続分での分け方(相続税法16条)
子が全員放棄して、亡くなった方の父母や兄弟姉妹が相続人になっても、これらの計算は、もとの配偶者と子で行います。人数の数え方は、基礎控除の「法定相続人の数」は、どう数える?にまとめています。
数字の例
父が2026年に亡くなり、相続人は母・長男・長女の3人です。長男は家庭裁判所で相続を放棄しました。
- 保険金以外の財産5,700万円を、母と長女が2,850万円ずつ相続した
- 父が保険料を払っていた死亡保険金を、母が1,000万円、長男が500万円受け取った
- 長男が葬式費用200万円を負担した
1. 法定相続人の数と基礎控除
法定相続人の数は、放棄した長男も数えて3人です。基礎控除は3,000万円 + 600万円 × 3人 = 4,800万円です。
2. 死亡保険金の非課税枠
非課税枠は500万円 × 3人 = 1,500万円です。枠を使えるのは相続人の母と長女だけで、相続人が受け取った保険金は母の1,000万円だけです。相続人が受け取った保険金の合計(1,000万円)が枠(1,500万円)以下なので、母の1,000万円は全額が非課税です。残りの枠500万円を、放棄した長男が使うことはできません。長男の500万円は、全額が相続税の対象です。
3. 各人の課税価格
| 計算 | 課税価格 | |
|---|---|---|
| 母 | 相続した財産2,850万円 + 死亡保険金1,000万円 − 非課税枠1,000万円 | 2,850万円 |
| 長女 | 相続した財産2,850万円 | 2,850万円 |
| 長男 | 死亡保険金500万円 − 葬式費用200万円(非課税枠は使えない) | 300万円 |
課税価格の合計は6,000万円で、基礎控除4,800万円を引いた課税遺産総額は1,200万円です。
4. 相続税の総額
放棄がなかったものとして、法定相続分で分けて計算します。
| 法定相続分 | 取得金額 | 税額(税率10%) | |
|---|---|---|---|
| 母 | 2分の1 | 600万円 | 60万円 |
| 長男 | 4分の1 | 300万円 | 30万円 |
| 長女 | 4分の1 | 300万円 | 30万円 |
| 合計 | 1,200万円 | 120万円 |
5. 各人が納める税額
相続税の総額120万円を、課税価格の割合で分けます。
| 課税価格の割合で分けた税額 | 納める税額 | |
|---|---|---|
| 母 | 120万円 × 2,850万円 ÷ 6,000万円 = 57万円 | 0円 |
| 長女 | 120万円 × 2,850万円 ÷ 6,000万円 = 57万円 | 57万円 |
| 長男 | 120万円 × 300万円 ÷ 6,000万円 = 6万円 | 6万円 |
母は、配偶者の税額軽減で57万円を全額差し引くので、納める税額は0円です。家族で納める相続税は、長女の57万円と長男の6万円です。
長男が放棄していなければ、相続人が受け取った保険金は1,500万円になり、非課税枠1,500万円を受取額の割合で分けると、長男の500万円は全額が非課税枠に収まっていました。放棄すると、保険金を受け取る人の相続税が増えることがあります。
放棄を考えるときに、確かめること
- 亡くなった方が保険料を払っていた保険契約と、その受取人(保険証券、保険会社からの支払いの通知)
- 亡くなった方から生前に受けた贈与と、暦年課税・相続時精算課税の別(贈与税の申告書の控え)
- 葬式費用を誰が負担したか(領収書)
- 放棄によって次の順位の相続人(父母・兄弟姉妹)になる人がいるか、その人が財産を受け取るか
- 放棄したことと日付がわかる、家庭裁判所からの通知書
期限と注意
- 相続放棄の申述は、原則として、自分のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で行います(民法915条1項・938条)。期限の数え方は「相続の開始があったことを知った日」とは?にまとめています。
- 相続の放棄は、3か月の期間内でも撤回できません(民法919条1項)。放棄するかどうかは、借入金や保証債務の調べ、ほかの家族への影響まで確かめてから決めます。家庭裁判所の手続きは、必要に応じて弁護士・司法書士に相談します。
- 放棄した人も、保険金などを受け取って、全員の課税価格の合計が基礎控除を超えるときは、相続税の申告の対象になります。申告・納付の期限は、通常、亡くなった日の翌日から10か月以内です(相続税の申告期限から逆算する)。
- 放棄で相続人になった兄弟姉妹などが財産を受け取ると、その人の相続税には2割が加わります(孫や兄弟姉妹が相続すると、相続税が2割増える?)。
- 死亡保険金の非課税枠の分け方は、生命保険金の非課税枠のコラムにまとめています。
根拠
- 相続税法(e-Gov 法令検索) 第3条第1項(みなし相続財産)、第12条第1項第5号・第6号(非課税の枠)、第13条第1項(債務控除)、第15条第2項(法定相続人の数)、第16条(相続税の総額)、第18条(2割加算)
- 国税庁 相続税法基本通達「第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》関係」(3-1 相続を放棄した者の意義)
- 国税庁 相続税法基本通達「第13条《債務控除》関係」(13-1 相続を放棄した者等の債務控除)
- 国税庁 相続税法基本通達「第19条の2《配偶者に対する相続税額の軽減》関係」(19の2-3)
- 国税庁 相続税法基本通達「第19条の3《未成年者控除》関係」(19の3-1)
- 国税庁 相続税法基本通達「第20条《相次相続控除》関係」(20-1)
- 国税庁 質疑応答事例「相続を放棄した代襲相続人に遺贈財産がある場合の相続税の2割加算」
- 国税庁 No.4114「相続税の課税対象になる死亡保険金」
- 国税庁 No.4117「相続税の課税対象になる死亡退職金」
- 国税庁 No.4152「相続税の計算」
- 国税庁 No.4161「贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)」
- 国税庁「相続時精算課税制度のあらまし」
- 国税庁 No.4168「相次相続控除」
- 裁判所「相続の放棄の申述」
制度・一次資料の確認日:2026年10月29日。税額は、相続開始日の法令と、ご家族の状況・財産の評価に応じて計算します。
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